専門性のあるメディアで書くライターに必要な、業界の「相場観」

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07/10 (2020)

ブックライターの上阪 徹さんは『文章は「書く前」に8割決まる』の中で、こう書かれていました。

世間や会社など、文章を読む相手が、どのくらいの相場感覚を持っているか、それをできるだけ理解してから文章を書いたほうがいい。

文章を届けたいと思っている人たちには何が起きていて、何に関心があるのか。これを相場観と呼んでいて、文章を書く際はそういった感覚にアンテナを張る必要があります。変動するという意味でも、相場観という言葉はしっくりきます。

この相場観は、読者が異なるため当然、媒体によっても異なります。起業家の取材をするメディアであれば相場観は起業に関連する人たちが今何を感じているのか、何を考えているのかを理解した上で文章にしていく。

起業の他にも、テクノロジーであればテクノロジーの、マーケティングであればマーケティングの、デザインであればデザインの、それぞれの相場観があるので、それをつかんでいくための積み重ねが求められます。

inquireは専門性のあるメディアに関連する仕事が多く、取材対象者と読者層の属性が近い。相場観を磨くことは、伝わる記事を書くと同時に、よい取材をすることにもつながります。

相場観を磨くために

相場観をつかむために必要なのは、基礎知識のインプットと継続的なアップデートです。短時間で業務に関するインプットが必要なコンサルタントのごとく、短期間でメディアのテーマに関する知識をインプットすることが基本です。本のレビューはたくさんありますし、いくつかのレビューを見ながら本を選び、複数の本を読み進めていって共通して出てくる知識を重点的におさえます。

書籍等のインプット以外では、フィールドワークのようにコミュニティに入り込んで何に関心があるかを聞いたり、観察していくことも必要です。一線で活躍している人が今何を考えているのか、何をインプットしているのかに触れるとカバーしなければならない領域が明確になります。参与観察や軽いヒアリング等を通じて、基礎知識のインプットと知識の継続的なアップデートを行います。

継続的な知識のアップデートにおいては、関連メディアを継続ウォッチするというやり方もあります。ウェブメディアの記事を受け取るようにしたり、Google Alertなどでキーワード登録をしたり。大きな本屋に足を運び、関連テーマの書籍や雑誌のタイトルを眺めるというのも相場観をつかむ上では有効なアプローチだと思います。あとは、ソーシャルメディアから声拾う「ソーシャルリスニング[1]」のような手法もあります。

情報が更新されていく速度は早いので、ベースとなる知識をインプットした上で、常に更新していく。そうすると、取材対象の方が語る内容がより理解できるようになり、本質に近づいた質問がやりやすくなる。こちらの知識が一定以上あることが取材対象の方に伝わると、信頼してもらいやすくなり、より話してもらえる情報量も増えます。

情報が溢れる現代において、流通しにくい情報の媒介役を担うのがメディアに関わる編集者やライターの仕事だと考えています。特に専門知は流通しにくいので、媒介が必要です。専門性がある領域における相場観を磨き続けるためには、継続した学習が必要不可欠ですが、学ぶことを楽しめる人にはこれほど面白い仕事はないと思っています。

  • [1]ソーシャルリスニング

    ソーシャルメディア上で交わされるユーザーの会話を収集・分析し、活用すること。

モリジュンヤ

モリジュンヤ

Junya Mori

代表取締役

株式会社インクワイア代表取締役。2015年にインクワイアを設立。編集とデザインを掛け合わせた編集デザインを実践し、領域横断的に変容を支援。NPO法人soar副代表、IDENTITY共同創業者なども兼務。岐阜県出身。

株式会社インクワイア代表取締役。2015年にインクワイアを設立。編集とデザインを掛け合わせた編集デザインを実践し、領域横断的に変容を支援。NPO法人soar副代表、IDENTITY共同創業者なども兼務。岐阜県出身。

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07/10 (2020)

  • [1]ソーシャルリスニング

    ソーシャルメディア上で交わされるユーザーの会話を収集・分析し、活用すること。

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