コンテンツのアーカイブとそのインターフェース——残すこと、アクセスできること

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12/13 (2024)

インクワイアでは主として、企業のメディアづくりやメディア運営の支援を行っている。わかりやすいように表向きは「メディア」や「コンテンツ」という言葉を使っているが、我々としてはつくる成果物のすべてを「アーカイブ」として考えている。

デジタル成果物の耐久性(寿命)は紙や石に比べると著しく低く、インターネットの世界では、10年前に作ったウェブサイトが閲覧できない、数年前の記事が消えているなどということが当たり前のように起こっている。しかし、それでは人は過去から学ぶことができなくなってしまう。最近では、都合の悪い投稿や、炎上した投稿をすぐに消し、なかったことにするようなシーンを目にすることも多い。ウェブ上では過去の改ざんを容易に行うことができるとすら言える。しかしそれは、歴史の軽視や冒涜につながる。

ここで、あらゆるコンテンツを資産として考える国立国会図書館の例を見てみよう。国立国会図書館では資料の保管に期限はない。国民共有の文化的資産として、永く保存される。永久という無限を約束することは難しいかもしれないが、永久に向かう努力がそこではなされている。

わが国では、国立国会図書館法(昭和23年法律第5号)により、国内で発行されたすべての出版物を、国立国会図書館に納入することが義務付けられています。 納本された出版物は、現在と未来の読者のために、国民共有の文化的資産として永く保存され、日本国民の知的活動の記録として後世に継承されます。

- 国立国会図書館 納本制度

国立国会図書館では国内で発行された「すべての出版物」を継承していくことをミッションとしている。国立国会図書館でコンテンツの価値を決めることはしない。コンテンツの価値は後世が決めるものだからだ。いま評価されないものが、数百年後に評価されないとは限らない。コンテンツの価値は未来が決める。あらゆるコンテンツは、大きな可能性を秘めた文化的資産なのである。

だから、あらゆるコンテンツを「少しでも長く残す(アーカイブする)」という強い思想と努力が重要になる。インクワイアでもその思想を大切にしている。デジタルの成果物を永久に残すことは現実的には不可能だろう。だが、少しでも長く残す努力をすることはできる。丁寧に作られた質の高いコンテンツは、たとえデジタルでも、長く残ろうとする意思を持つ。たとえ整理の対象となったとしても、削除に対するためらいが生まれる。そのためらいはコンテンツの延命を助ける。だから、インクワイアではすべてのコンテンツを「アーカイブ」として捉えている。それは、1分1秒でも長く残って欲しいという願いの表れでもある。

とはいえ、いくら質の高いアーカイブでも、インターフェースに問題があればそもそもアクセスすることができない。文字サイズが小さければ、視力の低い読者は見ることができない。一行あたりの文字数が多ければ、どの行を読んでいるかわからなくなってしまう。文字色と背景色のコントラスト比が低ければ、目を細めて見ることになる。ナビゲーションが適切に整理されていなければ、探しているコンテンツを見つけることすらできない。つまり、アーカイブを読者に届けるためには、高いユーザビリティを持った良いインターフェースが重要になる。アクセスできないアーカイブは、存在しないに近い。

だからインクワイアでは、メディアづくりのサポートに加え、インターフェースのユーザビリティ改善も支援している。これまで語った通り、良いメディアづくりのためには、「アーカイブ(データ)」と「インターフェース(ユーザビリティ)」の両方がクオリティ高く揃っていることが重要である。いくら良いアーカイブでも、インターフェースが整っていなければ伝わらない。これらは二つながらの一つとして考えなければならない。

また、しばしば誤解されるが、「データ」と「情報」は別物である。データはただそこに存在しているだけのものに過ぎない(これをインフォメーションアーキテクトのリチャード・ワーマンは「無情報」と呼んだ)。そこに適切なインターフェースが与えられ、アクセス可能になることによってようやく人々の身体に入り、「情報」になっていく。「情報」の「情」は「人の心」という意味を持つ。人の心に辿り着くための道筋(インターフェース)を与えられて、データは初めて情報になる。

インクワイアは、歴史に貢献するための質の高いアーカイブづくりを使命としている。だがそれだけでは単に良質なデータに過ぎない。だからインクワイアでは同時にデザインコンサルティングやユーザビリティ改善支援を行っている。データを情報に変換し、歴史を未来に届けるために。

オウンドメディアのわかりやすさを向上させる「メディアユーザビリティ改善サービス」の提供を開始

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ヤマモトフミヤ

ヤマモトフミヤ

Fumiya Yamamoto

取締役 / designing編集委員

楽天株式会社、株式会社ビジネス・アーキテクツ、株式会社リクルートを経て現職。修験道の行者・山伏としても活動し、半聖半俗の日々を過ごす。専門は人間中心デザイン、デザイン倫理、情報アーキテクチャ。受賞歴にグッドデザイン賞、キッズデザイン賞、日本サインデザイン賞、日本空間デザイン賞、IAUD国際デザイン賞など。HCD-Net評議委員(倫理規定検討WG)。花人。長野県在住。

楽天株式会社、株式会社ビジネス・アーキテクツ、株式会社リクルートを経て現職。修験道の行者・山伏としても活動し、半聖半俗の日々を過ごす。専門は人間中心デザイン、デザイン倫理、情報アーキテクチャ。受賞歴にグッドデザイン賞、キッズデザイン賞、日本サインデザイン賞、日本空間デザイン賞、IAUD国際デザイン賞など。HCD-Net評議委員(倫理規定検討WG)。花人。長野県在住。

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