「副業でライターって実際どうなの?」を朽木誠一郎さん、山崎礼さん、長谷川賢人さんと語りました
2016年7月28日、神保町EDITORYにてインクワイアが運営するライティングコミュニティ『sentence』主催のイベントを開催しました。
今回のテーマは『副業でライターをすることのリアル』。ゲストには朽木誠一郎さん、山崎礼さん、長谷川賢人さんのお三方を招き、それぞれの副業ライター経験をもとにトークを繰り広げていただきました。
ライター人生を切り開いた副業
前半では自己紹介を兼ねて、それぞれの副業経験の話を伺いました。
1人目は朽木誠一郎さん。
朽木さんは大学生の頃から副業ライターとして活動し、卒業とともにメディア運営会社に就職。
自社メディアの編集長を務めながら、個人でも副業ライターとしてもさまざまな媒体で執筆活動に携わります。その後転職を経て、現在は編集プロダクション『ノオト』で記者・編集者として働いていらっしゃいます。
朽木さんは冒頭に「副業ライターは卒業しました」と話しました。その上で「副業ライターをしたことでライターとして道がひらけた」と、副業ライターでの経験から学んだことを語ってくれました。
朽木:「新卒で入社したメディア運営会社では、メディア運営の経験者がおらず、自分はライター経験者として、手探りでメディアを運営していました。その頃にたまたま個人で受けた副業の仕事が、僕にとって大きな転機になったんです。
当時はメディアの編集長もやっていましたし、自分でも『そこそこ書ける方だ』と思っていて。だから、個人で受けた原稿も、わりと自信を持って納品しました。ところが、編集者さんから戻ってきた原稿にはたくさんの赤(=修正)が入っていて、元の原稿よりはるかにレベルが高くなっていたんです。
そこで僕は身の程を知り、優秀な編集者の下でどんどん副業ライティングをして、自分のレベルを上げていこう、と考えるようになりました。
それからは“武者修行”のように、ジャンルを問わずたくさんの仕事を受けたと話す朽木さん。現在はウェブだけにとどまらず、雑誌での執筆や書籍の編集協力など、さまざまな形でのライティングに携わられています。
書きたい媒体は自分からアプローチ
2人目は山崎礼さん。
山崎さんが副業ライターとしてのキャリアをスタートしたのは、『WIRED』が公募していたブックレビューからでした。
レビュー記事を何本か執筆したところ、その文章力を買われて、仕事としてインタビュー記事の執筆を依頼されるように。
現在では、WIREDのほか『Medium Japan』でのエディター、『THE BRIDGE』でのライターなど、さまざまな媒体に携わっていらっしゃいます。
ブックレビューへの応募(=メール)からはじまった山崎さんのキャリアですが、Medium Japanの仕事もまた「メールを送ることがきっかけを生んだ」と山崎さんは語ります。
山崎:私はもともとMedium Japanのニュースレターを購読していたのですが、ある時、まるで女子高生が書いたような文調のニュースレターが届いたことがありまして。Mediumはクールなイメージだったので、『これは明らかにブランディングとして方向性が違うだろう』と思い、その旨を本国アメリカの事務局にメールをしました。
末尾に『何か手伝えることがあったら手伝うよ』と一文を添えて。すると『君、面白いね。Medium Japanを手伝わない?』との返信が来たんです。それが縁となって、Medium Japanのエディターとしてお手伝いさせていたただいています。
山崎さんは国内外のメディアを問わず、ライター募集がかかっていなくても「ここで書かせてもらいたい」とメールをしたそうです。すぐに仕事にはつながりませんでしたが、それがきっかけとなって、後々のライター契約へとつながります。
「メールすることは誰にでもできます」と言う山崎さんは、自ら行動を起こすことで、自身のキャリアを切り開いてきたのです。
副業だから書ける、好きな記事
3人目は長谷川賢人さん。
長谷川さんは大学卒業後、紙を扱う専門商社に入社。3年ほど働いたのちに、未経験でメディア運営会社の編集職に転職します。そこでスキルを身につけ、現在ではEC運営会社で編集・ライターとして働いていらっしゃいます。
現在、EC運営会社に勤めながら、副業でもライターとして活動している長谷川さん。本業と副業の両方でライターをしていると、どのような点にメリットを感じるのでしょうか。長谷川さんはこの問いに対して、「原稿料をあまり気にしなくていいことだ」と答えてくれました。
長谷川:ウェブメディアの場合、原稿料がそれほど高くない仕事も多いです。でも、副業であれば、あまり気にせず受けられるんです。だって、生活のベースには本業があるわけですから。
例えば『イベントレポートを書いてください』と依頼が来たとします。本業として考えたら、稼働時間やイベントでの拘束時間、移動時間などを踏まえると『割に合わない』と判断してしまうことも多いです。
これを副業として考えれば『自分が行きたいイベントに行ってお金がもらえる、ラッキー!』と思えるかもしれない。これは大きな違いだなと感じます。
メリットを最大限に活かすからこそ、副業をする上で気をつけていることがあると長谷川さんは語ります。それは本業(=会社)に迷惑をかけないこと。
長谷川:現職の仕事に関係するジャンルの仕事は受けないようにしています。それから、会社のイメージに影響を与えそうな媒体ではペンネームを使うなどして、気をつけるようにしています。
本業があってこその副業。長谷川さんは両方に敬意を払えているからこそ、副業のメリットを最大限引き出せているのでしょう。
チャンスはあるけれど、成長の限界も
イベントの後半は、長谷川さんがモデレーターとなって、登壇者によるトークセッションに。その中で、会場から出た質問に登壇者が答えるシーンがありました。
Q:副業でライターをやることのメリット・デメリットはなんでしょうか?
長谷川:先ほど話したように、メリットはお金を気にしなくていいことだと思いますね。ライター未経験でも、副業であれば単価が高くない仕事を受けて経験を積めます。今のWebメディアではどこもライター不足で、本業の経験やブログなどの事例を武器に、未経験でも書かせてくれる媒体もあるはずですから。
朽木:デメリットの話をすると、副業の限界はあると思います。例えば、副業で有名媒体の編集部に出入りするようになっても、やはり基本的には外部の人間という扱いです。ある程度のところまではいけるけれど、そこから先にはいけない。僕は副業でやっていて、そう感じました。
副業と本業のバランス感覚
Q:副業禁止の会社で働いているのですが、ライターになりたいです。どうしたらいいでしょうか。
山崎:もし会社の考える副業がお金を稼ぐことであれば、お金を稼がない副業ライターという道もあると思います。私はMedium Japanのエディターを無償でやっていますが、本業とは別に書ける場所があればそれでいいと思っています。私の場合、副業の目的は稼ぐことがではなく、キャリアアップや今後の仕事につなげる自己表現の場を得るためだと捉えているので。
長谷川:山崎さんの話を受けると、「副業で本当に稼ぐ必要があるのか」という問いは重要ですね。副業ライターの出口を考えた時に、名を上げて有名ライターになりたいのか、どこかに属するライターになりたいかも1つの判断材料になると思います。
Q:副業のための時間を作るのが難しいのですが、タイムマネジメントはどうしていますか?
山崎:すきま時間を活用しています。前職では電車通勤で1時間程度かかっていたので、乗車中にiPhoneで記事を書いていました。あとは「寝る前に書く」という風に決めて、書くことを習慣化にしていましたね。
長谷川:僕は……気合いで作るしかないと思います(笑)。ただ、気合いでどうにもならないのが「日中の取材対応」です。日中は基本的に出社していますから、対応できるのは平日の夜か休日だけ。なので、編集者さんに時間を調整していただいて、自分が対応できる時間帯にずらせなければ「僕の出番じゃなかったんだ」と思って、丁重にお断りするようにしています。
編集者がライターに求める、たった1つのこと
Q:編集者がライターに求めることを1つ上げるとすれば、それは何でしょうか?
朽木:「最高の原稿を上げるためのガッツ」ですね。全力で書ききっていない原稿は大体分かります。だからこそ、制限時間内で最大限のガッツを見せてほしいですし、毎回そういう原稿を上げられる人は、きっと上にいけると思います。自分で言っていて身につまされますが。
長谷川:僕は「そのメディアのことが本当に好きかどうか」だと思っています。山崎さんがMedium Japanのメールマガジンで違和感に気づけたのは、Mediumを愛読していたからですよね。
そのメディアのことが好きで日頃からしっかり読み込んでいたら、媒体のトーンや記事の雰囲気は、自ずとつかんでいるはず。僕が編集者としてつくならば、媒体のことを心から好いてくれているライターさんと一緒に仕事がしたいですね。
(執筆:小山和之)
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