良い記事広告のためには、明確なメディアポリシーを。編集者とセールスが向き合うべきこと #記事広告ナイト

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06/19 (2018)

inquireでは、ビジネスやカルチャー、テックなどの多様な領域の“未来”を思考するイベントを定期的に企画している。これまでに「ミレニアルズ編集者の挑戦」や「これからの副業」をテーマとしたイベントを開催してきた。

第3回のテーマに選んだのは、「良き 『記事広告』のために大切な編集とセールスの関係」。今回は、これまで多くの記事広告を手掛けてきた3名のゲストに登壇していただき、記事広告の役割や評価の仕方、編集とセールスの関係性について語ってもらった。

ゲストは、株式会社ベーシック執行役員でWebマーケティングのノウハウが学べるメディア「ferret」Founding Editorの飯髙悠太さん、Webメディア「TABIPPO.NET」を運営する株式会社TABIPPO代表取締役の清水直哉さん、フリーランスの編集者/ライターとして活躍する長谷川賢人さん。モデレーターは、inquire代表のモリジュンヤが務めた。

コミュニティの価値に見合う商品設計を

最初のテーマは、記事広告の商品設計について。TABIPPOの清水さんは、まず「自分たちのメディアにしかできないこと」を突き詰める必要性があると語る。

清水さんTABIPPO.NETは「若者に旅を広める」ことをコンセプトにしたメディアです。全体の収益の約3割を占めているのが、記事広告です。商品設計を大事にしており、自分たちのメディアにしかできないことは何かを突き詰めています。

TABIPPO.NETの強みは、PV(閲覧数)といった指標ではなく、旅人のコミュニティを持っていること。それをどのように記事広告に生かせるのかを日々考えています。

飯髙さんferretの場合、メディアが持つ「コミュニティ」の枠を提供していると考えています。つまり、PVやCPM(1000インプレッションあたりの費用)ではなく、Webマーケティングに関心のある人というターゲティングされた読者に対して、情報を届けられることが価値になります。商品設計を行うときも、このコミュニティの価値に見合う金額にすべきです。

あとは、記事広告を単発で受注して、事業を回すのは大変ですよね。ferretでは年間の案件にすることも意識して、ドメイン配下にタイアップメディアを展開するメニューも用意しています。その方が、目標に向かってお互い本気になることができるので。

長谷川さん:ライターも、商品設計について知っておく必要があると思います。記事広告を受注したとき、ライターにいくら支払われれているのか。値上げ交渉をしろという話ではないのですが、制作に充てられる費用がいくらかを把握することで、自分たちが使える制作費を概算できるようになるのは大切ですね。

PVで測ることができない記事広告の成果とは

トークセッションの前半では、そのメディアにしかない強みやコミュニティの価値を商品設計に活かすことの重要性が指摘された。それらの強みや価値を、どのようにして記事広告の成果として可視化すればいいのだろうか。PVやCPMといった従来の指標ではない、新しい記事広告の成果指標に関する議論が行われた。

飯髙さん:クライアントの商品によっても異なりますが、1案件の記事広告でコンバージョンにつなげるのは難しいですよね。特にBtoB向けメディアでは、記事を読んですぐに購買につながるようなことは、ほとんどないので。

たとえば、ferretの記事広告で「良いWeb接客ツール」を知って興味を持ったら、まず周辺のツールを検索して調べますよね。次に上司に相談して、やっと1週間後に資料請求につながる。記事広告をきっかけに資料請求につながったとしても、こうした成果を可視化するのは難しいです。

広告効果の詳細な分析を行うことで、どのようにユーザーが間接的にコンバージョンしたかが分かるようにできれば、記事広告の価値は今よりももっと上がると思います。

長谷川さん:メディアジーンに所属していたとき、ギズモード・ジャパンとライフハッカー[日本版]という媒体で、「記事広告の購買貢献度」を測定した事例がありました。

この記事広告は、商材が通信系サービスで、消費者が製品に興味を持ち、購買につながることを目的としています。実際に広告効果測定ツールで分析したら、ギズモードの読者は読んだ瞬間に購買につながったのですが、ライフハッカーは1週間後から増え始めたんです。

つまり、ギズモードの読者は「ギズモードのことが大好きな層」、ライフハッカーを読んでいるのは「比較検討層」であることが分かります。このように広告効果を分析することで、自分たちのメディアにどのような強みがあるのかも見えてきますよね。

飯髙さん:詳細な分析まではできなかったとしても、滞在時間や読了率で判断してほしいかなと。PVを指標とするのは否定しませんが、メディアの中にいるユーザーの行動を変えることが目的だから、読んだ人がどのように評価しているかを大事にしてほしいですね。

清水さん:旅行業界は、コンバージョンを物理的に計測できないことが多いです。そのため、仮説が非常に重要になります。記事を読んで旅行に行ってもらうためには、どんなコンテンツが必要なのか、担当するメンバーが「良い記事になった」と評価してもらうようにはどうしたらいいのかも考えますね。

また、飯高さんが言っていたように、1本の記事広告だけでは限界があるので、最終的な目的に向かって何をするべきか、中長期的なプランを提案するようにしています。たとえば、定点調査を行ったり、ユーザーに対してアンケートをとったりもしていますね。

長谷川さん:北欧、暮らしの道具店の記事広告プログラム「BRAND NOTE」の制作を担当したときに、クライアントから嬉しい反応が返ってきたことがありました。「今まで自分たちでは発見できなかったマーケティング課題が分かった」と言われたんです。

記事を届けるというミッションは変わらないけれど、クライアントで関わってくれる人がどのような経験をしたかも重要になると気付いた瞬間でしたね。これにより、新しい商品の広告やマーケティングに生かされていくのは、PVでは計れない記事広告の成果かなと。

目的のすり合わせは、なるべく直接行う

トークセッションの後半では、良い記事広告を作るために大切な編集とセールスの関係性について、議論が盛り上がった。両者のコミュニケーションにおいて、気を付けるべきことは何だろうか?

清水さん:クライアントと目的をすり合わせして、セールスやライターに任せたつもりが、いざアウトプットを見るとズレていることは多いですよね。

何のためにやっているのかというコミュニケーションがとれていないと、セールス側は「PV目標を達成したから大丈夫」、ライター側だと「PVはとれていないけど面白い記事だったから良い」となりがちです。なるべく直接、目的のすり合わせをしたほうが良いですね。

長谷川さん:ライターや編集者は、基本的に案件に関する情報が下りてくるのが遅いので、心細いときもあるんですよ(笑)。取材当日はおろか、最後までクライアントに会えないこともある。不安もある中で、「とにかく頑張る」意識だけで臨むのはお互い不幸だと思うんです。

特に初めての依頼のときは、媒体やクライアントが何を求めているのかを詳しく知りたいです。「この記事を読んで執筆を頼んだ」なども教えてくれると、書き手としてはモチベーションは上がりますよね。そういったすり合わせができないまま執筆すると、失敗することが多いと思います。

飯髙さん:どのようにコミュニケーションをするかは、難しい問題ですよね。ライターや編集者からすると、自分たちにとって良いコンテンツを作りたい。セールス側からすると、目標を達成するために、メディアに合わないとしても売る必要があるでしょう。

答えは出ませんが、良いコンテンツとは何なのか、どんな世界観を目指すのかといった「メディアポリシー」が明確化されていないのが問題かなと。その共有ができていれば、編集者とセールスに前向きなコミュニケーションが生まれ、良い循環が生まれると思います。


イベント当日は東京のTwitterトレンドで3位になったことから、これまで記事広告に関わる人々の悩みや知見の共有が進んできておらず、そういった場の必要性を大きく感じた。

inquireでは、より良い記事広告やメディアの未来を探っていくため、今後もこうしたイベントの開催をすることで、参加者の皆さんと一緒に議論を深めていきたい。

登壇者プロフィール

飯髙悠太(いいたか ゆうた) 株式会社ベーシック執行役員 / ferret Founding Editor。広告代理店、制作会社、スタートアップを経験。複数のWebサービスやWebメディアの立ち上げに関わる。また、企業のWebマーケティングやSNSプロモーションをはじめ、50社以上のコンサルティングを経験。2014年の4月にWebマーケティングのノウハウが学べるメディア「ferret」の立ち上げにあたり参画し、同年の9月にリリースし、現在は業界No1メディアに成長。月間450万PV、38万人の会員を誇る(2018年4月現在)。2018年2月にコンサルティング事業部を立ち上げ、東証1部上場企業を含め10社のコンサルティングを実施中。

清水直哉(しみずなおや) 株式会社TABIPPO 代表取締役。東京学芸大学に在学中に世界一周のひとり旅へ。帰国後、旅で出会った同世代の仲間と一緒にTABIPPOを立ち上げる。卒業後は、株式会社オプトに入社して、ソーシャルメディア関連事業の立ち上げや、当時の最年少マネージャーを経験。2014年4月にTABIPPOを法人化して起業を果たす。TABIPPOでは「旅で世界を、もっと素敵に」を理念として、旅を広めるために多角的に事業を展開。トラベルライターが旅の情報を発信するWEBメディア・TABIPPO.NETは月間480万PVを超えた。また「旅するように働き、生きる」を指針として、新しい時代の働き方や組織作りにも挑戦中。

長谷川賢人(はせがわけんと) 1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科を卒業。2009年に新卒で紙の専門商社へ入社後、2012年に編集者/ライターへ異業種転職。メディアジーンにて「ライフハッカー[日本版]」副編集長、㈱クラシコムにて「北欧、暮らしの道具店」編集スタッフを経験した後、2016年9月よりフリーランスへ転向。ウェブメディアの記事広告は執筆・編集多数。媒体はライフハッカー[日本版]、北欧、暮らしの道具店、WIRED.jp、ROOMIE、まぐまぐニュース!、ハフィントンポスト日本版、アニメイトタイムズ、KAI-YOU.net、SAKETIMESなど。

(執筆:庄司 智昭 / 写真:小山 和之)

株式会社インクワイア

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インクワイアは、問いを立て、探究する編集デザインファーム。スタートアップ、科学技術、イノベーション、カルチャー、自然、地域など多様な領域を探究し、コンテンツの企画・制作、メディア運営、イベント企画、リサーチ、コンサルテーションなどを手掛けています。

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