AI時代の誠実さのために
AIという言葉が日常の語彙に定着してから、まだそう長い時間は経っていない。にもかかわらず、その進化と変化の速度はすでに、個人が把握しきれる範囲を超えている。先月まで最先端とされていた使い方が、今月にはすでに前提知識になっている。最先端を追い続けるのではなく、その中にある普遍的な意味を見つめることこそが重要だ。
課題を生み出し続けるAI、解決し続けるAI
議事録やサマリをAIによって生成することは、もはや定番になっている。だが、AIが生み出すテキストには、いくつもの弱点がある。文章量そのものが肥大化しがちであり、また、どこかで見たようないかにもAIらしい文体に流れやすい。
そこで多くの現場が試行錯誤の末に辿り着いたのが、HTMLによる出力だった。HTMLであれば強弱をつけ、図として見せることができる。数千文字のマークダウンよりも視認しやすいだろう。しかし、HTMLの表示にはレンダリング、つまりブラウザの機能が必要になる。NotionにHTMLを貼り付けても、HTMLは表示されない。HTMLを表示するためには、ローカルにダウンロードし、HTMLファイルを開き、ブラウザでレンダリングする必要がある。この壁を越えるために、それぞれの現場が独自の工夫を重ねてきた。
インクワイアも例外ではない。AIのアウトプットをHTML化し、Googleドライブへ自動で保存し、SlackにURLを貼ることで閲覧可能にする仕組みをつくった。SlackのBotにHTMLを渡せば、勝手にドライブへ格納され、URLが返ってくる。そのURLをクリックすればHTMLが開くという流れだ。GAS(Google Apps Script)を利用してシステム化した。当時としては必要に迫られてつくった工夫だった。
だがいまはNotion上でHTMLをそのままレンダリングできるようになった。正直これは予想していた。AI時代、新しい課題が生まれ続け、解決され続けている。多くの人が課題に感じているということは、解決に向けて動いている人がいるということでもある。Notion内でのHTMLファイルの閲覧が可能になることは、時間の問題に過ぎなかったのである。
プログラミングもまた例外ではない。コードを書くこと自体はすでにAIの領分になりつつある。とはいえ、いまのところ、コーディングとバージョン管理システム、デプロイまでが一気通貫でつながっているわけではない。ここにはまだ明確な課題が残っている。だが課題があるということは、先述の通り、遠からず解決されるということでもある。実際、Cursorは先日コードストレージ・Gitホスティングサービス「Origin」を発表した。2026年秋には提供されるとのことで、これがリリースされれば、開発からバージョン管理、そしてデプロイまでCursor上でできるようになる。
新たな課題が大量生産され、それらが即座に解決されていくのがAI時代だ。その中で人間には、高速に変化する環境を絶えずウォッチし続け、新たな環境に適用し続けることが求められている。そして我々はこの光景に見覚えがある。App Storeが登場し、誰もがアプリを開発し、公開できるようになったとき、同じように課題が大量生産され、解決され続けた。さらに遡れば、Web2.0のときも、その前もそうだった。人類は結局これを繰り返している。
落ち着いて向き合うということ
心理学者アブラハム・マズローの言葉に、次のようなものがある。
「持っている道具がハンマーしかなければ、すべての問題が釘に見えてくる」
AIを手にした人にとって、いまやほとんどの業務がその釘に見えている。とにかく叩ける釘を探している。このハンマーを使いたくてたまらない。だからフロンティア的に課題が生まれ続ける。そして解決し続ける。変化し続ける。しかもそれが早い。だから、追い続けることは非常に困難である。
それに、変化の速すぎる対象を無闇に追いかけたところで、その知見はすぐに陳腐化する。であれば専門家としての役割は、AIの速度に合わせて走り続けることではなく、落ち着いてその奥にある構造や意味を見極めることにあるはずだ。AI時代において、本当に大切なことは何なのか。人間の創造性はいかにして高めることができるのか。本当はAIによって何を成すべきなのか。AIは人間に幸せをもたらすのか。AIと自然の関係はどうなっていくのか。考えるべきこと、悩むべきことはたくさんある。
最先端のノウハウに固執し、構造的な意味や問題に目を向けず、目についた便利さのままにAIへ活動を委ねてしまえば、AIの進化に付き合い続けるほかない。AIの動向に注目することは悪いことではないが、最先端にいること自体が目的化してはならない。
AIは便利である。だからこそ、そこに人間の思考や創造性まで明け渡してはならない。考えることと作ることは、人間の宝だ。インクワイアでは創造性を守るためのAI利用ポリシーを定め、AIの利用時に自動でそれが読み込まれる仕組みを導入している。ポリシーに抵触するような使い方をすれば、AI自身がストップをかける。これは不便なことである。だが必要な不便である。この不便を手放すことは、創造性を手放すことに等しい。
進化と変化に踊らされず、人としての思考と創造性を手放さず、それでいて時代の動きからは目を逸らさない。そのバランス感覚こそが、AI時代における誠実さなのだと思う。
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Fumiya Yamamoto
UXデザイナー/インフォメーションアーキテクト
楽天株式会社、株式会社リクルートを経て現職。UXデザイン黎明期より実践・研究・啓蒙に携わり、Webサービスから商業・文化施設まで、幅広い領域での体験設計を手掛ける。また、資本主義社会における倫理の探求を契機として、修験道の寺院にて得度。現在は、半僧半俗の存在として、山伏修行と現代社会の仕事を行き来しながら、その中で得た洞察をコンセプト設計やサービス開発へと反映させている。専門は人間中心デザイン、デザイン倫理、情報アーキテクチャ。受賞歴にグッドデザイン賞、キッズデザイン賞、日本サインデザイン賞、日本空間デザイン賞、IAUD国際デザイン賞など。共著書に『シン町家百科』(2025, 盆地Edition)。HCD-Net アンエシカルデザイン研究会 主査。
楽天株式会社、株式会社リクルートを経て現職。UXデザイン黎明期より実践・研究・啓蒙に携わり、Webサービスから商業・文化施設まで、幅広い領域での体験設計を手掛ける。また、資本主義社会における倫理の探求を契機として、修験道の寺院にて得度。現在は、半僧半俗の存在として、山伏修行と現代社会の仕事を行き来しながら、その中で得た洞察をコンセプト設計やサービス開発へと反映させている。専門は人間中心デザイン、デザイン倫理、情報アーキテクチャ。受賞歴にグッドデザイン賞、キッズデザイン賞、日本サインデザイン賞、日本空間デザイン賞、IAUD国際デザイン賞など。共著書に『シン町家百科』(2025, 盆地Edition)。HCD-Net アンエシカルデザイン研究会 主査。
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