「社内シンクタンク」はなぜ重要か?Cobe Associe 田中志さんに聞く、「企業知」の編集

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05/02 (2023)

企業の「知」がなければ、実践も、発信も成り立ちません。実践を重ね、発信を継続していくには、「企業知」とでも呼ぶものを磨いていく必要があります。

広がり続ける編集の可能性を探究し、その担い手として未来の創造に貢献するイベントシリーズ「editorial studies」。第2回はCobe Associe代表・田中志さんをゲストにお招きし、「企業知の編集」をテーマにお話を伺いました。

【3/28開催】なぜ、いま「社内シンクタンク」か?企業知の編集を内製化する editorial studies #2

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ゲストプロフィール

田中 志さん - 合同会社 Cobe Associe 代表

Boston Consulting Groupに新卒入社、Japan Healthcare PracticeでAgility Award受賞。その後博報堂傘下のイノベーション支援チーム・quantumや服薬/療継続支援をテーマにしたデジタルヘルス領域のスタートアップで執行役員として活躍。2018年6月神戸に移り、同年9月にCobe Associe法人化。2019年度神戸市データサイエンティスト。経済学修士(一橋大学大学院)

社内シンクタンクは「探索する・考える・提言する」を内製する

「新規事業社会を旅するパートナー」を掲げて活動するCobe Associeは、2018年の創業以来、60を超える企業の支援を行ってきました。最近、増加傾向にある相談の一つが、「社内シンクタンク」に関するものだそうです。

では「社内シンクタンク」とはどのようなもので、どのような成果を目指すものなのでしょうか。まず、イベントでは社内シンクタンクについて伺うところからスタート。

もともと、「シンクタンク」とは、さまざまな分野の専門家を広く集め、基礎研究や応用研究などを行う組織を指した言葉です。国内の代表的なシンクタンクとしては、野村総合研究所や三菱総合研究所などが挙げられます。こうした従来のシンクタンクは、企業の中に存在するというより、独立した組織として活動しています。

田中さんはシンクタンクが果たしている役割を「探索する・考える・提言する」という3つのキーワードを挙げ、考えを共有しました。

田中さん「まず『探索する』には二つの意味が込められています。一つは時間軸における探索、いわば『未来を探索する』という意味です。政治や経済などいくつかの軸から、日本や世界で予測されていることを集め、整理する。公開されている中では、野村総研の『NRI未来年表 2023-2100』が有名な例の一つですね。

もう一つは地理的な意味での探索、いわば『世界を探索する』という意味です。未来探索の場合と同じくいくつかの軸を設定した上で、海外の先行事例や最新の知見・情報などを収集し、整理します。

探索を通じて集まり、整理されるのは純粋な情報であり、ファクトです。そこから類推したり、何らかの示唆を導き出したりするのが『考える』にあたります。

そして、導き出された素材をもとに、企業の課題解決や成果のために『提言する』。その提言をもってはじめて、それまでに収集・整理した情報に価値が生まれ、ステークホルダーを実際に動かし、成果に結びつけるところまでつながっていきます。

ここまでに紹介した『探索する・考える・提言する』のサイクルを回し続けるのがシンクタンクという機能です。そして、この機能を企業内に実装する試みが『社内シンクタンク』の立ち上げと運用支援になります」

「中核的な意思決定」のための情報や知識を、社内で編み上げる

なぜ、社内シンクタンクを立ち上げる相談が増加しているのでしょうか。田中さんは、その背景をこう分析します。

田中さん「理由の一つに、中核的な意思決定スキルを必要とする仕事が、社会的に見て年々数を増していることがあると考えています。それはつまり、定型的なマニュアルやフォーマットだけでは遂行できず、葛藤やジレンマを伴った意思決定が必要とされる、いわば『簡単には決められない』仕事を指します。こうした仕事は1960年時点では約6%だった一方で、2018年には約34%にまで増加したという研究もあります

田中さん「当然ながら、意思決定には材料となる情報が必要です。そして、中核的な意思決定においては、その情報を外部のシンクタンクやコンサルティングファームから調達してくるだけでは不十分なケースが少なくありません。自社の文脈にそぐわない情報が混ざっていたり、共通言語がなく参考にしづらかったりするためです。

となると、必要な情報や知識を自分たちで収集し、自分たちの文脈も考慮に入れながら、それらを編み上げていくしかない。社内シンクタンクの立ち上げは、その課題を解くための手段でもあります」

田中さんは重ねて、様々なビジネスモデルの寿命が短縮傾向にあることも、社内シンクタンクが求められる理由につながっているのでは、と話します。

田中さん「企業にはますます、これまで以上の速さで既存の事業やサービスを改善していく、あるいは新規事業を立ち上げ成長させていくことが求められています。そうなると、先ほど紹介した『探索する・考える・提言する』でいう探索を、事業活動の中に組み込んでいく必要があります。

探索を外部に委託するとスピードにも欠けてしまい、結果として変化に適応できない。社内シンクタンクを通じて内製することは、文脈性の担保に加え、変化に対する素早い見立てや反応のためにも必要なことと言えます」

社内シンクタンクが求められる背景について語った後、「探索する・考える・提言する」を内製すること自体のハードルが下がっていることも、社内シンクタンクの浸透を後押しするかもしれない、と言葉を続けます。

田中さん「事業活動において必要な情報を自分たちで収集し、具体的な提言にまでつなげるというと、難しいことのように聞こえるかもしれません。ただ少なくとも、その手法自体はシンプルであることがほとんどです。

たとえば、探索に必要な基本的なツールや手法は、結局はGoogle検索やユーザーインタビューのようなものです。シンクタンクやコンサルティングファームでさえ、探索から提言まで、何か高度なツールや手法を駆使しているわけではありません。裏を返せば、手段自体はどの企業もアクセス可能なものであり、その実行ハードルも日に日に下がっています」

社内シンクタンク、ナレッジマネジメント、メディアの親和性とポテンシャル

インクワイアでは、企業の情報発信を支援するなかで、企業の中に眠る知にアクセスする必要性を感じ、情報発信とナレッジマネジメントの関係性について考えてきました。ナレッジマネジメントと、社内シンクタンクはどのように関係するのでしょうか。

企業の情報発信力強化のために、社内にナレッジシェア文化をつくる

コラム

田中さんにその関係性を問いかけてみると、こう返ってきました。

田中さん「社内シンクタンクによって生まれた提言や示唆には、多くの場合時間の経過によって、様々な変化の余地が発生します。どのような余地があるかを考えるためのヒントとして、ナレッジマネジメントによって日々可視化される過去の蓄積や、試行錯誤の結果などがあるのではないかと考えています。

ナレッジマネジメントは、自分たちの経験や活動に埋め込まれた知識に焦点を当てます。つまり、両利きの経営でいう『深化』の領域にあたる情報が自ずと集まりやすい。一方で、社内シンクタンクにおける情報収集は『探索』にフォーカスしたものです。社内シンクタンクとナレッジマネジメントを両輪で進めることは、企業が深化と探索のバランスをうまく取っていくことにもつながるはずです」

社内シンクタンクの活動と、情報発信の関係について尋ねてみると、「社内シンクタンクの活動によって集められた情報は、社内外に発信することも考えられる」と田中さん。

田中さん「社内シンクタンクの実践プロセスから生まれた情報や示唆を社外に発信することは、自社が活動する産業や領域をどのように捉え、どのような未来を見出しているか、その姿勢や展望を伝える上で重要な意味を持ちます。また、発信を積み重ねていくことで、自分たちが目指したい未来に向けて、少しずつ問いを投げかけていったり、風向きを変えたりすることにもつながるかもしれません。

一方で、社内に対して発信することもまた、いくつかの意味を持つと考えています。たとえば、自社が探索すべき方向性を理解したり、その上で抑えておくべき潮流を把握したり。また、自社がパーパスへ向かう上で具体的に何が必要となるかを、情報やファクトと合わせて一人ひとりが考えることにも結びついていくはずです」

「視点」が肝となる社会で、研究量と勝負感を支える存在に

社内シンクタンクという試み自体は、まだ社会のなかで芽を出したばかりと話す田中さん。今後、発展していった先に、どのような可能性が広がっているのでしょうか。田中さんが考える社会の流れにも触れながら、その見通しについて言葉にします。

田中さん「この先、どんな事業においても、『独自の視点を持てるかどうか』の勝負になってくると想像しています。

AIの発展などによって、今後は統計から弾き出した戦略や過去の事例に基づいた方法、つまり『一般的にはこうです』といった情報が、これまで以上に流通していくはず。

だからこそ、自分たちにしかない視点を活かして、課題の評価や設定を行ったり、自社と社会の文脈を重ね合わせながら活動したりすることの価値が、上がり続けていくと考えています」

田中さん「その視点を生み出すのは、『独自の研究』の積み重ねと『勝負感』の磨き込みだと思っています。『独自の研究』が指すのは、今日触れてきた社内シンクタンクの実践である『探索する・考える・提言する』過程そのものです。このプロセスをいかに重ねられるかが、企業の成長速度や確度に大きく影響するはずです。

『勝負感』は、事業などを通じて実際に勝負していくことでしか磨かれていかないものです。とはいえ、いきあたりばったりで勝負を繰り返していてもなかなか成果に結びつかない。重要なのは、研究に基づいて勝負を仕掛ける、その結果を踏まえてまた研究するといった往復を連続させること。社内シンクタンクの実装は、この連続を生み出す土台にもなりうるのではないでしょうか」

メディアという装置を通じて、社内シンクタンクの「探索」における活動を後押しできる可能性は十分にありえます。

メディアや編集の可能性を探究していく上で、より企業の中長期での価値形成に貢献する可能性を持つ動きとして、社内シンクタンクの存在には注目していきます。

前回のeditorial studiesのレポートはこちらからどうぞ。

オウンドメディアの多様な価値を引き出すために大事なこと──キリンのオウンドメディアを手掛ける平山高敏さんの実践と経験から考える

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栗村智弘

栗村智弘

Tomohiro Kurimura

エディター

フリーランスを経て、2020年夏にインクワイアへ入社。クライアントワークと自社事業の双方で、プロジェクトやコンテンツの編集を務める。スポーツが何よりもの生きがい。神奈川県藤沢市在住。うさぎを飼っている。

フリーランスを経て、2020年夏にインクワイアへ入社。クライアントワークと自社事業の双方で、プロジェクトやコンテンツの編集を務める。スポーツが何よりもの生きがい。神奈川県藤沢市在住。うさぎを飼っている。

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