プロジェクトエディターが探究し続ける“編集”とは

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12/22 (2022)

インクワイアでは、編集を拡張し、プロジェクトも編集対象として捉えて、さまざまなプロジェクトを編集しています。

プロジェクトを編集するとはどういうことなのか。探索しながら日々業務に取り組んでいるプロジェクトエディターの二人に語ってもらいました。


稲葉志奈

プロジェクトエディター・UXライター。副業では、飲食店を中心にコピーライティングの仕事も担当。プロジェクト編集では「チームが健全な状態で、良いアウトプットをつくるために、プロセスやゴール、体制も含めて編集をしていく」ことを重視している。システムや構造を変える仕組みづくりが関心領域のひとつ。逗子に犬と暮らしているが、インドアなので白い。

森部綾子

プロジェクトエディター。新卒でデザイン会社に入社し、紙媒体の制作進行、ウェブサイト制作ディレクション、情報設計などを経験。その後大学院への進学を経て、2020年にインクワイアへ。現在は、主に企業のメディアにおけるコンテンツ企画・運営に携わる。学生時代から、コミュニケーションデザインの分野に興味関心を持つ。休日にはキャンプ、時間があれば犬と散歩しているので、年中日焼けしている。

プロジェクトエディターの具体的な業務とは

──二人が担当している業務について教えてください。

森部:クライアントに伴走しながら、プロジェクトのマネジメントやファシリテーションを行っています。ファシリテーションは打ち合わせの進行のみならず、プロセス全体において大切な要素のひとつだと感じています。

対話を促すためにささいな声かけをしたり、コミュニケーションのタイミングやとり方を状況によって変えたりしていくことも、その一部です。プロジェクトを前進させるために、マネジメントとファシリテーションの両輪を回し続けていくイメージを持つようにしています。

稲葉:より具体的な業務でいうと、クライアントとの連絡窓口、プランニング、進行管理、情報資産のドキュメンテーションや管理なども含まれます。

私は、ライターとして執筆を担当することもあります。プロジェクトエディターとして伴走しながら得たクライアントの事業や社風に対する理解をコンテンツとしてアウトプットすることで、より理解や自分ごと化が深まっていくんです。

──どんなプロジェクトに関わっていますか?

稲葉:長期で継続的に伴走するプロジェクトが多いですね。社内でのコミュニケーションが目的のものもあれば、ユーザーに向けたコミュニケーションが目的のものもあり、いろいろな目的のプロジェクトを経験することができています。

例えば、39Worksは、大手IT企業の新規事業創出におけるコンテンツづくり、インナーコミュニケーションが目的です。プログラムは毎年開催されているので、担当者の方と相談しながら少しずつ改善を重ねるなど、新しい施策に挑戦しています。

新規事業創出を促すインナー・アウターコミュニケーション、ナレッジ共有を促進(39works)

事例

森部:長期的に伴走するプロジェクトもあれば、短期的な完走型のものもあります。

長期のプロジェクトは定期的にコンテンツを発信していく、オウンドメディアや採用ブログなどといったコンテンツ制作です。ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンのプロジェクトでは日常的に議論を重ね、目標を定めながら一緒にメディアをつくり上げていくプロセスを歩んでいます。

クレドのような社内向けのインナーツールをつくるプロジェクトなどは後者にあたります。プロジェクトの目的やプロセスに関わらず、コンテンツを受け取る相手に何がどのように伝わるとよいのか、それを言葉にしながら形作っていくことを大事にしています。

クリエイターの実践コミュニティをエンパワーするためのメディア活用を支援(ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン)

事例

稲葉:私の担当する案件はいわゆる大企業が多いですが、森部さんは大企業の他にもベンチャーやスタートアップも担当されてますよね。どういった違いがあるのか気になります。

森部:スピード感は違うかもしれません。ベンチャーやスタートアップの場合、意思決定者が窓口を担当してくれている場合が多いんです。そのため、意思決定者と直接やりとりができ、ものごとが素早く決まる傾向にありますね。

ただ基本的な進め方は同じで、プロジェクトの目標、ゴールから逆算し、どういうプロセスで推進していくかといった計画を描くところから始まります。計画から細かなタスクに落としていきながら、プロジェクトメンバーとこまめにコミュニケーションをとり、進捗をつくっていきます。

インクワイアはフルリモートのワークスタイルをとっている組織なので、同期と非同期のコミュニケーションを使い分けながら、部分的にジョインいただくライターやフォトグラファーの方々とも連携していきます。

──日々の業務の内容や流れなどを簡単に教えてください。

森部:仕事の内容は多岐に渡ります。コンテンツ制作に関わる業務の他にも、プロジェクトの収支管理、取材の日程調整、打ち合わせの設計・進行、ドキュメンテーションなども行います。

稲葉:仕事が幅広い一方で、1週間における曜日ごとのリズムはある程度定まっている気がします。ペースメイカーとして、週次でクライアントとの定例を設定しているので、毎週この日に向けて業務を考えるというリズムがあります。

ゴールから逆算したときに、次の定例までの1週間でどういった進捗をどうつくるべきか、考えながら業務を行っています。「定例までに非同期で進めておけることはないか?」「同期でないと進めづらいことはなにか?」といった観点で1週間の動きを決めていますね。

でも、個人の裁量に委ねられた働き方なので、今週の木曜日はちょっと空いてるから午後は美術館いってこようかなみたいなイレギュラーな予定を入れてリフレッシュするといったことも可能です。フルリモートなので、場所の自由も大きいように感じています。

──柔軟なワークスタイルなんですね。フルリモートの中で気をつけていることなどはありますか?

森部:稼働状況や体調も含めて自分の状態をSlackに投稿するなど意識的にオープンにしつつ、お互いにフォローし合っていくことを大事にしています。

個人としても、自分のパフォーマンスを最大限発揮できるようにするには、どうしたらいいか?という考えを土台にしています。私は主に自宅で仕事をしているのですが、体調が悪いときには無理をしない、集中できる時間に仕事を進める、家族との時間を大切にするなど、時間の調整も個人に裁量があるので、仕事がしやすいです。

稲葉:裁量があるだけでなく、その裁量をうまく使うにはどうするべきか一緒に考えていこうとする雰囲気もあります。それによって、無理して良いものをつくるのではなく、良い状態で良いものをつくることを、チームでめざせています。これも「プロジェクトを編集する」という考え方に繋がることだと感じています。

──「プロジェクトを編集する」ってどういうことですか?

稲葉:プロジェクトって人やお金や時間など必要なものがたくさんあるけれど、それが全て揃っている状態ってほとんどないと思います。そんなときに考えることは、「今あるもので、どう成果をだすのか」。これって、すごく編集的な思考だと思うんですよね。

プロジェクトエディターという職種への解像度を高める

──「プロジェクトを編集する」ことは既存の領域だと、どういうものと近いと思いますか?

森部:プロジェクトマネージャーやディレクターといった職能と近い感じがします。全体設計にとどまらず、推進や施策の実行もプロジェクト編集の領域です。

アサインを含めたチームづくりの側面も強く、進めている企画が目指している形やクオリティを実現するために、どういったクリエイターの方とご一緒できるのがよいかを考えてオファーを出すことも含まれます。アサイン後、企画の内容を具体的に考えたり、プロジェクトによっては撮影やイラスト制作を依頼したり、クリエイティブ要素のディレクションが発生することもあります。

稲葉:確かにプロジェクトマネージャーやディレクターはプロジェクトエディターと重なる部分が大きいですね。あとは、プロダクトマネジメントの考え方も近いのではないかと感じています。手掛けるのがメディアということもあって納品がゴールにはなりにくく、継続させることが価値につながる性質をもった仕事が近いのではないかと感じています。

──プロジェクトエディターとディレクターは領域が近いとのことですが、もともとディレクターだったお二人があえて「プロジェクトエディター」のキャリアを選んだのはなぜだったのでしょうか?

森部:プロジェクトも編集対象である、という考えに共感したのが大きいですね。メディアをつうじた情報発信には、伝えたいことをきちんと伝わる形にしていくことが必要だと思っています。ですが、伝えたい相手や内容以前に「つくる」ということが先立つ場合も多く、違和感を覚えたことがありました。

結果として似た形のアウトプットになったとしても、プロジェクトによってとるべきプロセスやアプローチはそれぞれです。だからこそ、「そもそも何がしたくて、そのためには何が必要か?」という部分からプロジェクトを「編集していく」ことができたらいいなと思いました。

稲葉:プロジェクトエディターとして関わり始め、その奥深さに気づき、ディレクターから転身しました。ディレクターとして仕事をしていたときには、いくつものもやもやを抱えていました。

それはアウトプットを生み出すことに直接貢献しているデザイナーやエンジニアへの後ろめたさであったり、自分が担当している進行管理やディレクションという業務が生み出す価値への自信のなさであったり。プロジェクトを編集する中にはアウトプットの価値を高めるためにプロセスを変えていくというのも含まれます。

直接的にアウトプットを生み出すわけじゃない役割でも、こんなにもできることがあるんだと思うことができたときに、プロジェクト編集を極めたいと感じました。

──プロジェクトエディターはどんな人に向いていそうですか?

稲葉:さっき、私や森部さんがあげていた「もやもや」は、チームやプロセスに対する理想があったからこそのものだったんじゃないかと思っていて。

質の高いものをつくることだけでなく、それを生み出すプロセスやチームが健全で楽しい状態にあること、それがきちんとクライアントの成果につながっていること。もしかしたら、綺麗事に聞こえるかもしれないけれど、それをあきらめたくないと感じている人は向いてそうだなと思います。

森部:稲葉さんがマインド的な部分をあげてくれたので、もう少しスキル的な部分をあげるとするなら、柔軟な考えや行動ができる人に向いているかなと思います。状況を見ながら、そのときに必要な動きを考えて実践することも多いので。

整理や言語化できていない状態から、コミュニケーションを重ねながら具体化して、実際にプロジェクトとして動かしていくプロセスでは、試行錯誤を繰り返していくことも多いです。日々小さな実践と省察のサイクルを回しているような感覚もあるので、そうした小さなトライにも積極的になれるとより楽しめる気がします。

プロジェクターエディターとしてのやりがいや大事にしていること

──プロジェクトを編集するうえでの大切な点や意識している点はありますか?

森部:プロジェクトの進め方はひとつではなくて、目的やゴール、変化していく状況や関わるメンバーによっても最適な方法が異なります。だからこそ、より最適な方法はないか、目標を実現するためにはどうしたらいいのか。日々探究と実践を繰り返しながら、プロジェクトをさらによい状態にし、前進させていくために、編集が必要になってくると感じます。

現状や課題を可視化することで、捉えやすくなったり、議論を進めやすくなったり、見通しが立てやすくなったり、それによってメンバーが安心して動けるようになる。これも編集の要素のひとつだと思います。

ただ、プロジェクトは「生き物」です。当初の計画どおりに動かしていくことも大事ですが、状況をよく見て、何を優先すべきか、誰に声をかけて動かしていけばよいのか、柔軟に動くこともときには必要です。一人で抱え込まず、チームのメンバーに相談しながらやっていく、オープンさも大切にしています。

稲葉:私も全体最適な動き方は意識してます。特に意識している点でいうと、チームの中での動き方ですね。いい意味で分業しすぎない。クリエイティブを細かくディレクションするという意味ではなく、プロとしておまかせはするけれど、プロセスを改善したり、アイデアだしは一緒にしたり、関与できることの中で、アウトプットの質を高めるために自分にできることがないか意識しています。

その人に本質的な仕事をしてもらうためにも自分ができることはないか。これは仕事をご一緒するクリエイターだけでなく、対クライアントにも言えることで、社内調整や、自社とか事業とかに関わる部分のディレクションに集中してもらえるよう考えています。

──プロジェクトエディターとしてのやりがいはどういったところですか?

森部:つくってきたものが世の中に出ていくときは、やはり何度経験してもうれしいです。評判が良いとなおさらですし、クライアントに喜んでもらえたり、協力してくださったクリエイターのみなさんが、このプロジェクトに関われてよかったと言ってもらえたりするときにやりがいを感じます。

また、プロジェクトが継続していくなかで、新たな相談をもらうこともあって。そうした期待をしてもらえるのもうれしいです。きちんと応えていきたいなと背筋が伸びますね。

稲葉:いい意味でクライアントとのやりとりがフランクになっていくと、信頼につながった感じがして嬉しい気持ちになります。あとは改善の成果が出たとかは純粋に嬉しいですね。月次のリフレクションをして、「ここをもっとこうできるといい」「こういう工夫ができないか」「こういうコンテンツを出してみたらどうだろう」チームから挙がったアイデアをクライアントに提案して「ぜひやろう!」となったとき、継続していくなかでのやりがいだと思います。

──プロジェクトエディターとして仕事をしていて難しかったこと、困難なことはありますか?

森部:思ったように進まないこともたくさんあります。想定と異なっていたり、計画が崩れてしまったり、そこもプロジェクトが生き物ゆえの部分だと思います。ささいなコミュニケーションや、ドキュメントの作り方ひとつとっても試行錯誤の繰り返しです。

少しずつプロジェクトにフィットするものがわかってきて、できるようになっていく、といった感じです。でもプロジェクトエディターという新しい職種にストレッチを感じながら挑戦できているなという実感があります。

稲葉:ドキュメントの作り方は、私も相当試行錯誤を重ねました。特に「人感」をにじませるコミュニケーションが難しくて。ドキュメントを読んだだけでも、伝えたいことが伝わり、業務っぽすぎず、信頼感につながるようなテキストコミュニケーションをめざしているんですが、何度も何度もジュンヤさんからフィードバックいただいた記憶があります。

──最後に、今後チャレンジしていきたいことを教えてください。

稲葉:少しずつ関わるプロジェクトの規模のバリエーションを増やしていきたいです。プロジェクト編集の考え方のどこからどこまでが「公式」のように使えるのか。どこが固定値で、どこが変数なのか。「公式」として体系化ができたら、メディア以外のあらゆるプロジェクトをうまく進められる人になっていけるんじゃないかと思っています。

あとは技術系の知識に興味があるので、サイエンスコミュニケーターのような仕事や、技術系の会社でナレッジマネジメントに関わるような役割も担ってみたいです。

森部:今は、読み物としての「コンテンツ」をつくることに携わる仕事がほとんどですが、「人びとの集う場づくり」にもチャレンジしてみたいですね。

ワークショップやイベントのデザインにも興味があります。物理的な空間をつくることもおもしろそうですが、それ以上に人びとが集うことで何を生み出していくことができるのか。そうした場には何が必要か、どうしたら居心地がよくてコミュニケーションが活発になるか。コンテンツやメディアの範囲を広げて、そういったことを考えていけたらいいなと思います。

そのためにメディアやコンテンツが何らかの役割を担うこともあるかもしれません。プロジェクト編集の経験を生かしながら、コミュニケーションのきっかけをつくりだせたらと。


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インクワイアは、「問いの探究」と「変容の触媒」を理念に掲げて活動するカタリスト・カンパニー。ビジネスやテクノロジーの領域を中心に、多様なメディアの立ち上げや運営を手掛けてきた知見を活かし、自社メディア事業を展開すると同時に、クライアントの課題を編集の力で解決しています。

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